■SAW
うーん、、 最初に言っちゃいますけど、世間での評判ほどに絶賛することはちょっとできませんね。 70点「がんばりました」ってところでしょうか。

着想とその奇抜さ、エグさは結構いいんですよ。 緊張感や、絶望感や、独創的な死体の作り方はね。 でもそれは「セブン」や「CUBE」でもそうだった訳で、だからって「『セブン』meets『CUBE』」なんて言われちゃってるんですが、でもそれは言いすぎなのねー。
っていうのは、こういう作品は、決して、殺し方が独創的であるということだけが主眼じゃないってこと。
何より必要なのは、(特に「CUBE」系の理不尽空間&謎解き演出をするのなら)"必然性"と"不条理さ"のバランスの美学。 この映画には、それがまだ足りないんですな。

例えば、「鎖じゃなくて足を切るためにあるんだ」って最初に気づいちゃったノコギリを、本当に足を切るのに使っちゃうなんてのは安易であって、クライマックスのドンデンが必要なシーンでのその安易さは、「あー、結局そうなんだ」って白ける要因になってしまう。 この手の犯人は、常人では理解もつかない高度で緻密な計算でもって殺人を遂行しなきゃならないのに、結局常人が思いついたその通りの使い方、ってのはちょっとね。(せめて「足を切るためだ」のセリフがなければなー)
もちろん、思いついたけどそんなことはできない、っていう事態に最終的に追い込むってのは良いんだけど、でもそれも、妻たちが大変な目に遭っててでも携帯に届かなくて、っていう偶然性の故でしょ。 あそこで携帯が遠くに放られてるかどうかなんてわかないんだから。
この手の事件で、偶然に頼る部分があっちゃダメよ。
ストーリー展開のメインとして、繋がれた二人が次第に互いの関係性に気づくにいたって、信頼が崩れて危険な状態になっていく、っていうのが重要なポイントとしてあるのは確かで、そうなっていく過程、例えばアダムがポラを隠したり云々、っていう"偶然性"は確かに必要ですよ。 でもそれすらも犯人の計算の上、っていうのが良い訳じゃない。

それとか、遅効性の毒を注入して犠牲者に言うことを聞かせる、という手法を何回も使ってるとことか、仕留め損ねた刑事を生かしといたこととか(第二の殺人でゴードンのペンライトを落としといた事を考えると、刑事を絡ませるのも計算の上?でもそこに必然性はないわよねえ。ゼップが困ったってだけだしw)、第三の殺人(椅子でドリル)を自分のアジトで行おうとしてたとことか、ゼップに与えられてたルールが曖昧すぎるとことか(これだとゼップは裁くべき対象だったというより、ゴードンを陥れるためにたまたま選ばれたって位置づけでしかないし)、etc.
あとは、あの鎖のあの状態では、何ぼなんでも電流は流れないでしょ、って(ノ_-;)

そして何より、犯人の設定がしょぼすぎるっつの(´д`;)
ヤツがあの癌患者である必然性は全くないし(ゴードンとの関係を際立たせたいならもっとそういうエピソードを入れなきゃね)、もし必然性を持たせられないんなら、逆に"不条理さ"の勝利とするべきで、つまり最後まで犯人は正体不明のまま明かしちゃダメ。
私ならあのラストは、逃げたゴードンが遠くで殺される音がして、犯人がバスルームに現れ(でもシルエットで顔は見えない)、「鍵はバスルームの中だ」とだけ言って、扉を閉めて終了、が理想的ですな。 これなら絶望感がいっそう際立つでしょ。(犯人は最前列で見たがる、っていう設定もどうせ生きてないしね。それ生かすならもっとほかの殺人においても、犯人の"視る"事に対する執着をアピールしなきゃ)

うーん、あのラストでドンデンだのビックリだの言われてるって事は、世間一般では、まずタップが犯人だと思わせといて、実はゼップで、っていうのを本当に信じて見ちゃうって事なのかなあ。 あの時点であの出方で、ゼップが犯人な訳ないじゃないw

映画の手法的には、はっきりいってBGMやカメラワーク、カットインの使い方が稚拙。
せっかくのソリッドでいや〜〜なシチュエーションなのに、あんなドうるさい音楽じゃ台無し。 「CUBE」や「Elevated」や「死の王」みたいに、無調で低音で生理的にいやーな音楽で、嫌感をアップすればいいのに。 もしくは音なしで呼吸音や叫びだけを際立たせるか。
フィルムの早回しも過度演出だし(そういう映像の小手先技術を使わないであくまでドキュメンタリーっぽく"生"っぽく流してく方が、現実感を削がない、でもシチュとしては絶対的に非現実的で不条理、っていうアンビバレンツが成立するのに)、何より過去シーンのカットインが、ありゃナイねー(^-^;)
MEMENTOみたいに、記憶に挑戦する系の内容なら、ああやって挿入される過去シーンがすごく意味を持ってくるけど、この映画にそれは必要ないし、「いや別にそこでわざわざ挿入されなくても俺達普通に見てるしセリフだけで思い返せるし、むしろ馬鹿にされてる?」みたいな、これも白け要素。 特に、過去の殺人の状況なんて登場者各人の想像と伝聞でしかないのに、フラッシュバックしてくるはずないでしょ。

まぁ、監督らは26歳だって言うし、その辺若すぎるんでしょうな。 こういう人のイヤ感を逆なでする映画を撮るには、もうふた息くらい皮が剥けて、変に脂っこい部分がなくならないとね。 抑えに抑えた演出だからこその味わい、ってのを生かさなきゃさ。
そういう意味で、このレベルの映画で大ヒットだなんだと持て囃されちゃったのは、もったいない結果になっていきそう。 ここから更に"化け"られる力を持ってるんならいいけど、これ一発で終わっちゃったらなー、もったいないでしょ、ね。
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