■死の王
この「死の王」は、月曜日から日曜日までの1週間、自殺を勧めるチェーンレターを受け取り、様々な方法で死んでいく人々を、静かに淡々と映し出したフィルム(映画というカンジではない)です。 そしてその合間に、どことも知れぬ場所で腐敗し、蟲に食われて白骨化ていく死体を、高速度撮影した映像が挿入されます。
セリフは殆どなし。死んでいく人達の関係性なんかもなし。 ただ死ぬ、それだけ。
はっきし言ってそれだけ。そういう作品です。

結論から先に言っちゃいますと、私としてはかなり好きです、コレ。
まぁ確かに退屈な映像ではありますが(ある男の人が自殺する前に手紙を書き、掃除をし、金魚に餌をやり、ヒゲを剃り、きちんと服を脱いでたたむ所とか延々と流してたりしますからね)、その静かさや、微妙な手ぶれ具合の生きた画面、控えめな音楽もあいまって、見た後の余韻が、なんていうか、しんみりとほわーんと、美味しいお茶を飲んだ後の喉もとの温かさのように、しばらく身体全体に残ってて、なんか気持ち良かったです。
人が死ぬフィルム見て言う感想じゃないですけどね(笑)

テーマが死と死体であることから、世間ではかなりショッキングな物という扱われ方をしてますが、全っ然そんな事はないです。
映像で扱われる死体にも二種類あって、ホラーやスプラッタ映画によくある「誇張されたショッキングな死体」っていうのは、非日常であることを強調し、その「ショッキングさ」への拒否感や反動から、自分の生や安全な日常を再確認する為の物であって、逆に言えばそれは、自分の死から目を逸らす効果を持ってるんだと思います。
逆にこの「死の王」のような、淡々とした「日常の延長」としての「死」を見る・見せるのは、やがて来る自分の死を迎える為の、死の肯定としての冷静な視点を意図しての物なんじゃないかな、と。
まぁワタシ的には、死の肯定と生の否定はイコールじゃないんで、その辺はこの作品の趣旨とは違うんですが、でも生をどう捉えてようと、死が来るのは事実なんだし、事実を事実として誇大にも過小にもせずに、「原寸大」で受け入れるべきだと思うし、だから前者のような「やたらショッキングな死体描写」は好みじゃないし、そういうモノと同列でこの「死の王」を扱っては欲しくないんですよね。

そういう意味ではこの作品はある意味すごく仏教的なんだなー。 ラストで腐敗しきった死体のアップにかぶせて赤ちゃんの泣き声(多分)が流れてるのも、輪廻転生を表してる感じがするし。

しかしこれがドイツで上映禁止ってのは全く分かりませんわ。 禁止になった理由で、その腐乱死体がリアルすぎるんで、本物の死体を使ってるんじゃないかってのが問題になったらしいんですが(残念ながら作り物なんですが。作る労力考えたらその方が凄いけど(笑))、例え本物だったとして、それがなんなの?っても思います。 そりゃ、死体撮る為に殺人を犯したとか死体盗んで来ってんなら問題だけど、裏モノのスナッフビデオじゃあるまいし、普通に公開したい作品でそんなコトする訳ないでしょ。 だったら、本物だったとしてもそれは本人や遺族の承諾を得て譲り受けた死体な訳なんだし、それが腐ったとしてもそれがなんだ、ってことですよ。
例えば、放置された牛肉が腐る様を映したとして、それを不謹慎だのと言う人はいないでしょう。 それがじゃあ魚だったらどうか。 兎だったら?鹿だったら?象だったら?猿だったら?
確かに、穢いのは確かですから、嫌いって人はいるでしょうが、社会道徳的にどうかって言ったらどうって事はないですよね。
それがじゃあなんで人間だと問題になるのか。 人間の死、死体だけを特別視したがるのは、人間だけが特別な生き物だと思いたい、自分の人生は特別な物だと思いたいという奢った考え方であって、でも実際は、生に意味なんてないのと同様に死にも死体にも意味なんてない訳で、それを主張する為にこの作品はあるんだと思う。
そりゃまあ、それを認めたくなくって「けしからん!」とこのフィルム自体を燃やそうとする、事実を見ないようにしたがる気持ちは解りますけどねー。
解るけど、幼稚だとは思う。

それに加えてっていうか、こうやってDVDにまでして販売するにはしても、作り物の死体の性器にまでボカシを入れてしまう日本の映倫ってのも、これまた如何な物か(;´Д`)
エロならまぁ「刺激が強すぎる云々」という理由で隠すのも解りますが、死すら無意味であることを表現しようとしているこういう作品において、性器なんてそれこそ何だってんのよねぇ。 馬鹿馬鹿しいにも程がある。
腐乱死体を映すのは良くても性器は駄目って? なんつーか、この作品の意味わかってる?ってカンジ。
映倫が何ほどのものかは知りませんが、いかに内容を考えずに表面だけで線引きをしてるかってのを露呈してますね。 そんな 連中に映画の基準が云々って言って欲しくないですがね〜(-_-;)
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