・・・ Dummy Angel I ・・・
その変わった生き物は、時々やってきては私の部屋の隅にうずくまっています。

その背中には黒い小さな翼があり、それは何の役にも立たないのですが、
私にはひどく魅力的に思えます。でも彼にとっては翼があるのはごく当たり前の事であり、
それについて何も気にしていないようです。

マイペース、というのでしょうか、生活のテンポ、というかリズムが全く違うので、
ついていけない事に時折腹も立ちますが、
その苛立たしさは実は、私もそうしたいのにできないから
という妬みである事は解っています。


猫、、に近いのでしょうね。現世の動物の中では。


彼が来るたびに、私の部屋と心は引っ掻き回されるのです。
躾なんてできません。聞くわけがないですし。

もう、気にしすぎるのはやめよう。所詮動物のする事、
とは思うのですが、その瞳が暗闇であまりに妖しく光るので
どうしても私の頭の中から彼の事を追い払えません。

彼の体はとても細く、頼りなさげなのですが、彼は「愛される」という
目に見えない分厚い鎧を纏っているので、決して外界からの刺激では
傷つかないようです。いえ、それどころか、何にも関心を示していないようにも見えます。

彼の関心事はただ一つ、この先、一年かそこらでやってくる何度かの脱皮の後に、
どんな新しい姿になるか、それだけのようです。
その事になると彼は熱く語り始めますが、それを聞くと私の心は冷めるばかりです。
彼が消して手に入らない高みにいる生き物である事をまざまざと感じるからです。



まあ、結局私には傍に寄ってきた時に頭を撫でるくらいの事しかできません。
それも下心あってのことなのでしょうが(お腹が空いたとか、そういう)
仕方がない、それで満足する事にしましょう。







所詮、人には馴れない生き物ですから。
back>>